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プレスリリース

アカウミガメの保全への新たな一歩

~ 仔ガメの生態解明へ、国内初の国際共同研究スタート ~

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 NPO法人Sea Turtle Ecology Lab(略称:STEL)は、アメリカを拠点とするNPO法人Upwellおよび沖縄美ら島財団(沖縄美ら海水族館を管理運営)とともに、沖縄で孵化したアカウミガメの仔ガメの回遊生態に関する国際共同研究を開始し、2024年11月14日、沖縄県伊江島沖で小型衛星タグを装着した12個体を放流しました。

 孵化した仔ガメがどのように海洋を回遊し成長しているのか、その期間はロストイヤーズ(Lost Years)と呼ばれるウミガメ研究における最大の謎のひとつです。特に、生存率の低い仔ガメの期間の生態の解明は、絶滅危惧種であるアカウミガメの保全に貢献する重要な研究です。

 今回始まった仔ガメの行動追跡調査は、国内に生息するウミガメの仔ガメ(3ヶ月齢)を対象にした初めての研究であると同時に、ウミガメが生息域とする諸外国との国際共同研究を推進する新たな一歩です。

アカウミガメの仔ガメの回遊生態に迫る
小型衛星タグを利用した国内初の国際協同研究

 日本は北太平洋におけるアカウミガメの唯一の繁殖地です。アカウミガメは北太平洋を広く回遊し、太平洋を横断して遠くアメリカ西海岸やメキシコ バハ・カリフォルニアまで到達する個体もいることが知られています。しかしながら、アカウミガメは絶滅が危惧されており、日本で見られるアカウミガメも近年その数が激減しています。

 ウミガメの生活史の中でも、特に生存率の低い初期生活史の生態を理解することは保全にとって重要ですが、国内で仔ガメの生態研究が行われた例は多くはありません。本研究による小型衛星タグを用いた3ヶ月齢の仔ガメの行動追跡は国内初の試みであり、国際的な共同研究としても最先端の試みとなります。

 これまで仔ガメの回遊生態を把握するのは非常に困難でしたが、今回使用した小型衛星タグにより、移動経路および潜水深度や潜水時間のデータを得ることが可能になりました。今後数ヶ月間データを蓄積し、詳細に分析することで、仔ガメの分散・回遊、生息地の選択、海洋環境が行動に与える影響などが把握できるようになります。これらは、より効率的な保全戦略の構築のみならず、漁業、海洋プラスチック汚染、船舶の航行、エネルギー開発などの人為的脅威が及ぼす悪影響を理解するための重要な知見となることが期待されています。

 研究結果は論文としてまとめ公表する予定です。

※本研究に使われたアカウミガメの個体は、沖縄県海区漁業調整委員会による採捕承認(No. 6-k3)および沖縄県による特別採捕許可(No. 6-35)を得て捕獲しています。

共同研究に関するコメント

・STEL副理事長:奥山隼一博士

「近年、日本におけるアカウミガメの産卵数は激減しています。今回の研究を通して、アカウミガメの生活史初期における回遊や行動を少しでも明らかにすることで、絶滅危惧種であるアカウミガメの保護に貢献できればと思っています。」

・Upwell代表:George Shillinger博士

「これまで一度も行動追跡されたことのない3ヶ月齢の仔ガメが、北太平洋海域をどのように利用しているのかを知るまたとない機会を提供してくれるこの共同研究に参加できることを、私たちはとても嬉しく思っています。アカウミガメは海で多くの人的脅威に直面しています。これらの脅威を取り除くためには、ウミガメが生息している国々の保護・管理努力に加え、国境を越えた協調的解決策が必要とされています。」

・沖縄美ら島財団:河津勲博士

「沖縄美ら海水族館のウミガメ飼育技術が、この研究プロジェクトに貢献できることを大変光栄に思います。」

写真

小型衛星タグを装着したアカウミガメ
写真:©奥山隼一(STEL)
小型衛星タグを装着し海へ放流されたアカウミガメ
写真:国営沖縄記念公園(海洋博公園)/ 沖縄美ら海水族館

本研究に関するお問い合わせ

NPO法人Sea Turtle Ecology Lab(略称:STEL)
メール:contact@stel.or.jp(広報担当:竹中)
ウェブサイト:https://www.stel.or.jp/

NPO法人Sea Turtle Ecology Labについて

当団体は国内外の団体や研究者と協力し、ウミガメの基礎的な生態を解明することを目的とします。

※写真のクレジット表記を一部修正しました。(2024年12月5日)